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東京高等裁判所 昭和39年(く)50号 決定

少年 M・K江(昭二二・六・一九生)

主文

原決定を取り消す。

本件を東京家庭裁判所に差し戻す。

理由

本件抗告理由第一、重大な事実の誤認、または法令違反の主張について、

論所は、原決定は少年が梅毒に感染していることの故を以て医療少年院に送致決定をしたものであるが、右は重大な事実誤認である。また、原決定は少年が万引の容疑で築地署に補導されたと記載するが、少年は万引をした事実はないのであつて、将来少年が犯罪を犯す虞れのある事実についてはその証明がない。更に、本決定に摘示された少年の非行事実と保護処分の理由中には、何らその事実及び理由が示されていないから、少年審判規則第二条第三号に違反した違法があると主張する。

よつて、右所論に基き一件記録並に原決定を調査してみると、原決定はその理由中において、少年には少年法第三条第一項第三号の(イ)(ロ)(ハ)(ニ)に該当する具体的事由があつて、その性格、環境に照らし、将来犯罪を犯す虞れのあることを詳細説明しているから、毫も所論の如く決定に理由を附しない違法は認められない。また、鑑別結果通知書によると、少年が梅毒に感染していることが明らかであり、M・I子の司法警察員に対する供述調書、及び当審における事実取調の結果に徴すると、少年が昭和三九年二月○○日頃、同行の友人が万引したため、少年もその容疑で築地署に補導された事実が認められる外、原決定記載の事実は総べて一件記録で肯認するに十分であるから、所論の如く重大な事実誤認があるとは認められない。論旨はいずれも理由がない。

抗告理由第二、本決定には処分の著しい不当があるとの主張について、

所論に基き一件記録を精査し、当審で行つた事実取調の結果に照し考察すると、少年は昭和三八年四月○○○学園高等学校に入学後、不良の交友を生じ、スケート場、喫茶店等に出入りするようになり、同年夏頃から銀座辺の不良学生等と交際し、外泊するようになり、その結果、姙娠して翌三九年一月頃姙娠中絶の手術を受け、且つ、梅毒に感染したこと、その間、家出して友達と遊び歩くうち万引の容疑を蒙つたことが認められるが、一方、少年は非行が始まつて未だその期間が比較的短く、万引の容疑も少年の弁解によると、同行の友達が行つたもので少年は知らなかつたということであり、その他、これまで犯罪経歴のないこと、家庭は普通の生計を営んでおり、母や兄達においても少年の将来の善導については相当の熱意を有することが窺え、少年も医療少年院における三ヶ月に及ぶ治療並に矯正教育の結果、梅毒は快癒し、過去の不良交遊や気儘な生活につき反省悔悟し、将来は両親の許で真面目に生活し、学業に努めたいと決意するに至つたことが窺知できるので、これら原決定後の事情をも綜合考慮すると、既に病気も治療した少年に対しては、今後なお少年院に収容するよりも、寧ろ、今回の事件によつて親の責任を痛感した両親の許で、適当な保護観察の下に、規律ある生活をなさしめ、性格の矯正並に学業の遂行に努力させるのが将来のため効果ある措置と思料する。してみると、原決定は結果において著しい不当の処分であると認められるので、論旨は理由があるといわなければならない。

よつて本件抗告は理由があるので、少年法第三三条第二項少年審判規則第五〇条に則り、原決定を取消し、更に軽い処分を得さしめるため本件を東京家庭裁判所に差戻すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判長判事 渡辺好人 判事 目黒太郎 判事 深谷真也)

参考二

抗告理由

第一、重大な事実の誤認または法令違反がある。

本決定の主文は医療少年院に送致するとするものであるが、医療少年院送致は心身に著しい故障のあるものを対象とすべきであつて、本決定に摘示された非行事実と保護処分の理由には何んらその事実及び理由が示されていない。

本件の少年は梅毒に感染しているもので、医療少年院送致の理由も主として右理由によるものであるが、この点本決定は重大な事実誤認である。また、本決定が適用している少年法三条第一項三号イロハニの適条についても本少年は万引した事実はなく、当時万引で保護されたのは一しよにいた者であつて、少年は全然その事実を認識していなかつたものであつて、将来犯罪を犯すおそれある事実の証明がない。

よつて、この点についても重大な事実誤認があるというべきである。仮りに本件によつて認定した非行事実によつて医療少年院送致が出来るとしても理由を示さない以上少年審判規則第二条三号の法令違反があるというべきである。

第二、本決定には処分の著しい不当がある。

本件は少年の両親が子を思う親心から警察に相談したところ、警察の方で一、二ヶ月金を出して保護出来るところがあるからというので事件になつたものである。

両親にしてみればそれが少年院送致という意外な結果におどろいているものである。

少年の非行化は昨年一二月二四日の冬休み頃からであつて、まだ日が浅いこと、現在両親に宛てた手続の中に充分反省しており今後真面目になると誓つていること、前に全然非行歴がないこと、現在両親兄弟が責任をもつて監護する決意でいることなどから処分に著しい不当があるというべきである。

本決定の主な理由は万引をしたということと、梅毒に感染していることであるが、本年二月○○日万引の容疑で一回補導されたが同伴者がやつたもので、少年は当時催眠薬を飲んでいて全然認識がなかつたものであり、共謀の事実がない。

また、梅毒というだけで直ちに医療少年院送致を行うべきでない以上の理由により保護観察程度に止めるべきものであると思料する。

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